地産地消レポート 地元、食べてます記事一覧

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宮崎県高千穂町岩戸「五ケ村村おこしグループ」

地鶏うどんに地鶏そば、1個70円の温泉団子、平均年齢70歳

山里のふだんの食事がむらと神楽と棚田をまもった

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問い合わせ先
天岩戸温泉茶屋
宮崎県西臼杵郡高千穂町大字岩戸五八番地
電話 098-276-1213


現代農業2004年8月号増刊
「おとなのための食育入門」より

田舎の本屋さんで購入する
田舎の本屋さんで購入する

茶屋の売り上げを「神楽の館」建設資金に

 6月の平日。昼時の茶屋は、昼食をとる会社員や、予約をして会食する女性グループ、そして温泉帰りのお年寄りでにぎわっている。地鶏うどん、そばが、つぎつぎと運ばれていく。カウンターの前には、大きな密閉容器に詰められた団子が二種類。もう残り少なくなっている。

 「もう団子はないの?」と尋ねるおばちゃん。

 「たくさんいるようだったら、3時ころならできたてがあるよ」

 「じゃあ、先に温泉入ってくるから、10個とっといて」

 「私も5つ」

 横のおばちゃんもつられて頼む。

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これが評判の温泉団子。ゆでて冷凍しておいたヨモギはミキサーにはかけず、こねながら手でほぐすので葉っぱの形が残っている。小豆も、サツマイモも高千穂の農家のもの

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温泉団子は茶屋の厨房で、ひとつひとつ、手作業でこね、せいろで蒸し上げる

 地鶏うどん、そばに加えて、温泉茶屋のいちばんの名物が、この温泉団子。1個70円。白は芋あん、緑はヨモギ入り生地に小豆あんの小麦粉まんじゅうだ。

 茶屋で団子を出そう! と思いついたのは、甲斐清夫さん(昨年7月、79歳で逝去)と禮子さん(73歳)夫妻。

 「茶屋の無人直売所に、カライモ(サツマイモ)が、売れ残ってたんですよ。それは見事なカライモじゃった。これはもったいない! と思って、家で夫と研究して、いまの団子が生まれました。生地の分量やら、何度も何度も試作したんですよ」と禮子さん。

 入浴のあとの温泉客が買い、おいしいと口コミで評判になって、延岡や、日向、宮崎のほうからも、団子を買いにお客さんがやってきた。遠くから来たのに、売り切れということがないように、あらかじめ、電話で注文を入れて買いに来る人が増えた。宅配便の普及でふるさとを離れた子どもに、団子を送る人が出、その子どもに団子をもらった人から、注文が来たこともある。

 「いつだったか、埼玉の人から注文が来て、一度に700個送った」

 団子やうどんが人を呼び、人の環が広がっていった。盆や正月の休みには、ふるさとを離れていた人びとが、家族と茶屋に寄るようになった。なつかしいふるさとの味を味わいに、おみやげの団子を買いに。

 1個70円の団子は多い年で七万個も売れ、茶屋の売り上げも2000万円にのぼるようになった。

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建設中の神楽の館。建物は、隣の日之影町の古民家(農村歌舞伎の師匠宅)を、皆でていねいに解体し、移築。補助金のめどがたたず、4年間は、材料を野積みしていた

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現在の神楽の館

 この茶屋の利益と補助金、グループの手出し30万円×九軒分、そして新たな借り入れ金550万円の計1800万円で、平成六年、農家民宿「神楽の館」が完成した。九名は、農協にお金を借りる際、連帯保証人の欄に、ぐるりと円く名前を書き、真ん中に実印をついて持って行った。まるで江戸時代の唐傘連判状である。

「連帯保証人は二人でいいのに、こんなにたくさん名前を書いて……って農協に笑われました」(工藤正任さん)

 高千穂の夜神楽は、毎年11月中旬から翌年2月上旬まで、町内20の集落で、三十三番の神楽を徹夜で舞う。その舞台になるのが神楽宿で、その年の神楽が終了すると、集落の家のなかから、翌年の神楽宿を抽選で選ぶ。「神楽宿」は伝統的には農家を中心とした民家だが、改築したり、家財を運び出したりの準備がたいへんだという理由で当番を引き受ける家が年々減っていた。

 グループは「何百年も続いた伝統の神楽が自分たちの代で絶えるのは忍びない」と、いつでも神楽を舞うことのできる「神楽宿」であり、宿泊もできる「神楽の館」を建設し、こうして五ケ村の神楽は守られた。茶屋を訪れたたくさんの人びとや、うどんや団子を買った人びとに支えられて。