地産地消レポート 地元、食べてます記事一覧

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兵庫県多可町八千代区「マイスター工房八千代」

素材も手間も「ケチらない」 郷土にあるものを「見捨てない」

ここだけの味・絶品の寿司は、地域を大切に思う人たちの手から

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問い合わせ先
マイスター工房八千代
〒677-0103 
兵庫県多可郡多可町八千代区中村46-1
電話・FAX 
0795-30-5516(加工部門)
0795-30-5115(カルチャー部門)


現代農業2006年2月号増刊
「はじめてなのになつかしい 畑カフェ 田んぼレストラン」より

田舎の本屋さんで購入する
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おいしさの秘訣は「自分の舌」

 加工部門の営業は週4日。にもかかわらず、これだけの実績を上げる凄腕スタッフの素顔は……と言えば、地元で暮らすごく普通の女性たちである。八千代区(旧八千代町)中村地区の生活研究グループ「乙女会」のメンバーを中心に、区全域から23〜72歳までの女性20名が集まった。

 スタッフを束ねるのは施設長の藤原隆子さん(58歳)。アイデアと行動力を併せ持ち、細やかな気配りとリーダーシップでスタッフや顧客から慕われているマイスター八千代の“顔”だ。

 「うちのモットーはね、“人よし味よし笑顔よし”なの」

 そう話す藤原さんは、自ら率先して客とのコミュニケーションを楽しみ、真心を込めて接客する。たとえば、お客の目当ての寿司が売り切れてしまったとき。普通なら「申し訳ありません、売り切れです」ですますところだが、藤原さんは違う。「ごめんねえ、せめて味見だけでも」と、残っている寿司をひと切れずつ試食してもらうのだ。

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開店と同時に店舗内はお客さんでいっぱいに。積み上げた寿司や総菜があっという間に売れていく

 調理についてはけっして妥協しない。納得のいく味が出るまで追求する。おいしさの秘訣は、“ベロメーター”。つまり自分の舌で味を測ることだ。

 「マニュアルやレシピ通りにやってもおいしくならないから。とにかく自分の舌で味を覚えること。そして、その味がちゃんと出せているか、毎回舌で確かめること」

 早朝から調理を始めるスタッフは、毎朝9時にいったん朝礼と朝食を兼ねて休憩をする。その際、パンのほかにその朝巻いた巻き寿司を必ず食べるのも、巻き具合や味をチェックするためだ。

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主力商品の巻き寿司はスタッフ3人がかりで。店頭の売れ具合を見ながら、材料がある限り巻き続ける

 この日は急激に気温が下がったせいか、「すし飯が固いな」と藤原さん。「こんなふうに、そのときどきの湿度や温度なんかにも左右されるんよ。だから舌が大事」。“締めすぎずゆるすぎず”の微妙な巻き加減も味を左右するポイントだ。最近ようやくこの加減をみんなが覚え、味がそろってきたという。

 でも、たくさんある商品の味をそれぞれの舌でそろえるのはなかなかむずかしい。

 このため、総菜類と寿司類については藤原さんが味の最終チェックを必ず行なう。また、味噌、もち、おかきについては信頼できる「乙女会」の先輩(藤原さんいわく「相談役」)が、ドーナツやケーキなどは担当の若いスタッフが、それぞれ味に責任をもつ形をとっている。

手間や工夫、具材を「けちらない」

 「まあ食べてみてよ」と藤原さんが鯖寿司のひと切れを差し出す。さっそくいただいてみた。

 サバのプリプリした歯ごたえ、そしてサバ特有の臭みがほとんどないことに驚く。すし飯はかなり甘いが、けっしてしつこくない。米の炊き加減も絶妙。「鯖寿司は苦手、というお客さんもこれなら食べられる」というのもうなずける。

 「サバは姫路の漁港で水揚げされ、厳選されたもの。知人の魚屋を通じて仕入れています。だから新鮮なんやけど毎回大きさが異なるから加工は大変」

 仕入れたサバは頭と尾を落として開き、半身に分けて特製の合わせ酢に12時間漬け込む。これを販売当日の朝に1つずつ成形し、すし飯と合わせるのである。

 「サバを漬け込む合わせ酢は3年もの。減ってはつくり足してます。中身は企業秘密(笑)」。工房の準備期間はもちろん、オープンしてからも試行錯誤を重ねてたどり着いた秘伝の味は、藤原さんにしかつくれないものだという。

 サバの成形の方法にもこだわりがあり、「薄皮1枚剥ぐ微妙な包丁使い」が要求される。目下は藤原さんのほかにできる人がいないので、自らだれよりも早く加工室に来て(毎朝ほぼ四時ごろ)、その日に使う分を成形する。

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藤原さん特製の合わせ酢に前日から漬け込んだサバ。この片身1枚が鯖寿司1本分

 寿司一本にサバの半身を丸々使ったこの贅沢な鯖寿司、値段は800円〜1100円(部位や大きさによって異なる)と驚くほど安い! それも人気の一因なのだろう。

 続いて店頭販売数第1位の巻き寿司。見るからに具が多い……すし飯と具の量が通常の逆といった感じ。そして太い。どう見ても太巻きである。

 店頭には、ていねいに“巻き寿司のおいしい食べ方”が書いて張ってある。“キュウリは最後に食べて下さい。具の味が濃いので後味がサッパリします……”。

 かぶりついてみて、なるほどと納得した。濃い目の味付けがしてあるシイタケや卵焼きなどの具の部分から食べ始め、最後にみずみずしい大ぶりのキュウリの部分を食べるとえも言われぬハーモニーが口中に広がる。全体に甘くなつかしい味。醤油は不用。

 「1本につき卵焼きは卵1個、キュウリは縦半分に切って2分の1本を使っています。卵焼きは香ばしさを引き出すためにわざと焼き目をつけているので、よくアナゴと勘違いされます(笑)」とスタッフ。ほかに、八千代区特産の凍み豆腐、かんぴょうも入っている。これで1本420円。

 「一度食べたらやみつきになる」と言われる味は、厳選した具材を大胆に使い、手間と工夫を惜しまない「けちらない精神」から生み出されていた。