地産地消レポート 地元、食べてます記事一覧

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山形県小国町 小玉川・樽口・伊佐領集落

山の恵みを生かした観光ワラビ園は「コミュニティの源」

集落の山を「観光ワラビ園」に、「山菜の学校」に

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現代農業2006年8月号増刊
「山・川・海の「遊び仕事」」より

田舎の本屋さんで購入する
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山の恵みが恵みでなくなった昭和30年代

 ところで、現在、観光ワラビ園として活用している林野は、それぞれの集落の集落有林であり、昭和30年代後半ころまでは、むらの人たちが、牛に与える草を刈ったり、加工して出荷する山菜を採るための、大切な生業の場だった。

 小国町は、東京23区がすっぽり入るほどの面積を持ち、その約95%が森林でおおわれ、しかも70%以上がブナを中心とする広葉樹林という自然豊かな町である。冬は積雪が3〜4mにも達する全国屈指の豪雪地帯でもあり、農業をするにはきびしい環境にあるものの、その豊富な雪どけ水こそが、豊かな山の幸をもたらしてくれる。かつて山菜は、農家の貴重な収入源であり、ゼンマイやワラビの季節は、田んぼの仕事をよその人に頼んでまでも、山へ山菜を採りに行ったものだという。

 「つまり、そのくらい所得の根っこが深かったってことだな」と、話すのは、小国町の元助役、高橋睦美さん(75歳)。長年、企画畑を歩んできた高橋さんは、町全体を、自然と人間とのかかわり方を学習できるような空間に形成しようという「白い森構想」など、地域づくりに大きく貢献。観光ワラビ園の開設にも深くかかわった人物だ。

 ちなみに「白い森構想」とは、小国町が豪雪地帯でありブナを主とする広葉樹林で占められるところから、白い大地と白い木肌のブナ林にちなんで、ドイツの「黒い森」に対比し「白い森」と呼ぶようになったもの。

 高橋さんは、さらにこう続ける。

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山菜料理の数々。飯豊アザミと油揚げの煮物、沢フキと厚揚げの煮物、ウルイの一夜漬け、山ウドとニシンの煮物……

 「私はね、山村の農林業はモザイク型だと思っていた。1年365日、1日24時間、山とつきあい、田んぼとつきあい、牛とつきあう……。複合経営もいいとこだったんだな。朝、起きれば田んぼに行って草刈りをする。草を牛に食べさせる。山菜を採って塩蔵にする。現金収入は少ないかもしれないが、人びとの心は豊かで、四季の労働配分、1日の労働配分がうまくできていた。ところが、昭和40年代ごろから、主産地形成だの農業構造改善だのが始まった。お前は田んぼをやれ、お前はベコをやれ、でないと補助金はやらない、そういう理屈だ。そのところところに、暮らし方とか仕事の組み合わせ方があるのにな。そうなると、それまでの労働配分とか、農業経営がすっかり壊れてしまった。農家の収入は減り、離農者が続出した。高度経済成長時代、若い世代は勤めに出て、山へは行かなくなった。世の中の変化だから、やむをえないと言えばやむをえないかもしんねえけっども、私から見れば、山の恵みが恵みでなくなってしまったってカンジだな。山村に住む必要がなくなり、挙家離村なんて状態になった」

「盗られる山菜」を「地域の恵み」へ変えていく

 いっぽう、昭和50年代に入り、道路が次々に舗装されると、都市部の人たちが集落の山に山菜を採りにやって来るようになった。

 山菜採りにはルールがある。にもかかわらず、山とのつきあい方を知らない人たちが、根こそぎ持って行ってしまうため、山菜を生活の糧にしていた地元の年配者たちは困り果てた。

 「おれたちの山菜を、よその人が盗って行く」

 「山菜の時期だけ交通止めをしてくんねえか」

 そんな不満の声があがった。

 「われわれも、どうしたらいいもんかと考えた。人間の行動を律するものは何か。山の境はわからないからな。なら、サクランボ園とか、イチゴ園のように、ワラビ園というかたちにしたらどうかという話になった。誰かが肥培管理をしているところなら、人は盗らねえんでないかと。人はないものを求める。自然のない都市部の人は、自然を求めにやってくる。人間の欲求をそういうかたちで生かし、満足してもらう仕組みを築こうと考えた」(高橋さん)

 当初、地元の人たちは、ワラビと観光が結びつかず、「人に採らせたら何もなくなってしまう。おら、やんだ」と、反対する人がほとんどだった。だが、ヒザをつきあわせて話し合い、集落の将来のために、集落有林を有効に活用しようと説得。昭和51年に、まずは樽口と新股という2集落の計15ヘクタールで、補助事業を利用し、試験的に取り組むことになった。

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山焼き。山を駆け上がる火の勢いはすごい。一気にゴーッと燃え上がる。風の強い日は下からでなく、上から火をつける。

 下刈り、施肥、山焼きなど、しっかりと栽培管理を行なうと、立派なワラビがニョキニョキと顔を出した。実際、オープンすると、評判は上々で、観光バスが訪れるまでになり、「これはいい」と、町内のあちこちの集落が、あいついで観光ワラビ園の運営に乗り出した。わずか15ヘクタールで始まった小国町の観光ワラビ園は、その後、徐々に面積を広げ、現在、総面積はおよそ300ヘクタールに及ぶまでになった。