苗づくり=特産品づくり
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問い合わせ先
新島村ふれあい農園
〒1001-0400
東京都新島村字御子の花465
電話 04992-5-0539
FAX 04992-5-7096
http://www.niijima.com/farm/

苗づくり=特産品づくり

 「新島村ふれあい農園」のスタッフは5月下旬から6月下旬まで、気持ちの落ち着かない日々が続くこととなる。その原因は島で「アメリカ芋」と呼ばれ親しまれている「七幅」という品種のサツマイモである。表皮が白く、中身は若干の黄色身を帯びているこの芋は秋の収穫したばかりの頃には、粉ふきタイプのホクホクした芋であるのに、しばらく保存すると甘くネットリした蜜芋になる。新島の言葉では前者を「こうき」と呼び後者を「びんす」と呼んでいる。

 新島では畑を持っているほとんどの人がこのアメリカ芋を栽培しているといっても過言ではない。そしてそのうちの多くの人が同じ時期に苗を植えたがる傾向にある。

 農園では前もってアメリカ芋の苗の注文を受け付け、順番の早い方から苗を渡すようにしている。しかし、誰かが苗を植えたということを知ると、「さあ私も植えよう」とその動きが連鎖的に広がっていき、「新島村ふれあい農園」へは「うちの苗はまだかまだか」という問い合わせが同じ時期に殺到する。

 しかしサツマイモ苗というのは、苗の長さに適した芽を切っては新しい芽を成長させる、という手順で生産されるため、どうしても全ての要望にこたえることができず農園のスタッフは対応に四苦八苦するのである。

 この芋がいつごろ新島へもたらされたかはさだかでないが、日本にはじめて導入されたのが明治終わりの広島県とのことだから、大正か昭和のはじめころではないかと推察される。80歳近くの島のお年寄りに尋ねると、彼らが子供のときにはすでに食べていたようなので、たぶんその推察は大きくずれてはいないだろう。

 ところでサツマイモといえば様々な品種が知られているが、なぜこのアメリカ芋がこうも長く廃れることなく新島でつくられてきたのだろうか。それについては2つの理由があるのではないかと考えられる。

 まず1つには、この芋が秋の収穫後から、麦が収穫できる5月6月まで腐ることなく保存ができる性質を持っていることである。麦、サツマイモが主食とされてきた新島では、それらの農作物には長期に保存できることが求められたのである。

 もう1つの理由は、この芋がやせた土地でも栽培できることである。一般的にサツマイモはあまり肥えていない土に適した作物であるといわれているが、この「アメリカ芋」は新島の土のような保肥力がほとんど無いサラサラな砂質の土壌でも良質なものが収穫できる。農園での栽培試験でも、肥料を与えすぎたり、残存肥料が充分あるような畑で栽培すると、ひび割れがはいるなどの不良な芋が多くなり品質が低下する。

 アメリカ芋が、島の風土と食文化に適していたことが、長年にわたって栽培されてきた理由ではないだろうか。

アメリカ芋で地域振興

 現在、新島では「アメリカ芋」を使って農業振興をしようという動きがはじまっている。発端は島内にある焼酎メーカーがこの芋を原料とした焼酎づくりを復活させたところにある。大正15年創業というこの酒造メーカー、かつては島でとれた芋や麦を使った焼酎をつくっていたが、島内で安定した原料の入手が困難だったことから、長いあいだ島外から仕入れた麦を使って、麦焼酎を製造してきた。しかし、5年程前に若い経営者が地元の「アメリカ芋」の焼酎づくりに挑戦し、美味しい芋焼酎をつくりあげることに成功した。限定品のこの「アメリカ芋焼酎」は現在、すぐに完売してしまうほどの人気を博している。

 ところが、ここで問題になるのが良質なアメリカ芋がなかなか安定的に入手できないということである。もともと新島ではこの「アメリカ芋」を換金目的で栽培してこなかった。収穫された芋は自宅用や親類・縁者・友人への配布用で、売るというのはまさに想定外、最後の行為である。もともと小さな畑で手鍬をつかい栽培している芋なので、生産量も少なく買い付けようにも集めることが難しい。(島では自分で収穫したものを自ら売るというのは恥ずかしい行為と思う習慣もあるらしい)

 そのような状況を打開しようと、今年(2009年)から地元の建設会社や農家の生産者グループ(50〜60歳代ぐらいの農家数人で構成)などが焼酎用のアメリカ芋の栽培をはじめることが決まった。そして現在数反歩を一区画とする大きさの畑を数箇所整備し、生産物の取引方法などの話しあいがおこなわれている。

 「新島村ふれあい農園」でもその動きに答えるように、数年前から種苗会社へ依頼してアメリカ芋のメリクロン※の株を栽培してもらい、それを元にした苗の供給を開始している。昨年からは東京都の農業改良普及員と協力しながら農園内で「高品質なアメリカ芋の栽培方法を探る試験」などを開始し、さらに今年は例年より多くの種芋をふせこみ、ニーズにこたえられるように体制を整えている。

 このアメリカ芋をとりまく動きが、一歩ずつ実を結び「第2の安納イモ」と言われるようにしたい。「アメリカ芋焼酎」の土台となる芋の苗づくりはまさに「特産品づくり」の源と言えそうだ。

※メリクロン苗とは、植物の芽の先にあたる成長点を培養し育てたウイルス病などの病気に感染していない無病の苗のこと。

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新島村ふれあい農園の管理棟と育苗温室
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収穫したアメリカ芋。紡錘形をしているのがこの芋の特徴
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高校生がアメリカ芋栽培に挑戦。収穫した芋は酒造メーカーに依頼して焼酎にしてもらい、成人式の祝い酒とする。
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地元のアメリカ芋を使った「芋焼酎」。平成18年度東京国税局の鑑評会で優等賞を受賞。


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