江戸東京野菜をキーワードに農商行政連携の町おこし

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江戸東京野菜を守り・育てる

「このままではタネがなくなってしまう」

 いっぽう、都内JAグループの総合指導機関であるJA東京中央会では、1989年より江戸東京野菜の復活に取り組んでいた。都内の農家に栽培を奨励するとともに、昔ながらの固定種のタネの有無の調査や、保存活動などである。

 また大竹道茂さん(元・JA東京中央会参事)は、農協法施行50周年記念事業として、江戸東京の農業の歴史を伝える“説明板”の設置を企画提案。都内50カ所に、1997年から順次設置されることとなった。

 その昔、近郊に田園地帯が広がっていた江戸では数多くの野菜がつくり出され、参勤交代とともに全国へと普及していった歴史がある。小松菜、練馬大根、亀戸大根、谷中しょうが、千住ねぎなど、地名とともにその名を知られている野菜も少なくない。

 しかし1970年代中頃から、一代交配種(F1)が主流となって、固定種のタネ(農家などが自家採種できるタネ)が少なくなり、農地の減少とも相まって江戸東京の伝統野菜は年々つくられなくなっていた。理由は、束ねにくい、日持ちがしない、病気に弱いなど栽培が難しいこと、核家族化や食生活の変化により消費者のし好に合わなくなったことなどである。

 大竹さんはその後も江戸東京野菜復活に向けて、都内各地のJAや農家、研究機関を訪ねては、生産者を募る活動を続けていた。

 そして2007年1月21日、江戸東京たてもの園で開かれた小金井市の〈江戸雑煮を食べよう〉の取り組みに深い感銘をうけた。その後、大竹さんは小金井市の取り組みに全面的に協力。力強い助力者となっている。

 大竹さんは語る。「江戸東京野菜復活に向けて、小金井市では多様な取り組みが行われ、小金井産の農作物、農業への信頼感は高まっています。これからも小金井市の取り組みを応援していきたい」

 大竹さんは現在、(財)東京都農林水産振興財団の食育アドバイザーとして活躍するいっぽう、「江戸東京・伝統野菜研究会」代表、NPО法人ミュゼダグリ顧問としても活動している。

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江戸東京・伝統野菜研究会代表・大竹道茂さん
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大蔵大根、亀戸大根などの江戸東京野菜

小金井でも江戸東京野菜をつくろう!

 ちなみに、2007年1月に開かれた〈江戸野菜で味わう小正月 江戸雑煮を食べよう〉に使われた、伝統小松菜と亀戸大根は小金井産でなかった。そこでJA東京むさしが中心となって小金井市内4軒の農家を取りまとめ、秋に予定されているイベントに向けて、大蔵大根、亀戸大根、金町小かぶ、伝統小松菜、しんとり菜の栽培を開始。併せて、江戸東京たてもの園内に江戸東京の伝統野菜の畑をつくる取り組みも開始された。

 そして2007年11月11日、江戸東京たてもの園で開催されたイベント〈たてもの園・住と食文化フェア〜江戸東京野菜を味わう〉で、市内農家の手によって栽培された江戸東京野菜をはじめて本格的に販売。「黄金の昔野菜」のシールが貼られた5種類の野菜は、来場者の注目を集め、完売。生産者はじめ関係者は、今後の展開のヒントをつかむことができた。

 その後も小金井市の「江戸東京野菜 創・再生プロジェクト」関連イベントには、市内農家が栽培した江戸東京野菜が最大限に活用されている。

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会場では、小金井産の新鮮野菜が並んだ
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「黄金(こがね)の昔野菜」のシールを貼って販売

農家がすすめる江戸東京野菜栽培

 小金井市で江戸東京野菜を栽培する農家、井上誠一さんに話をうかがった。

 14年前にサラリーマンからUターン就農し、父、兄とともに野菜づくりに専念。江戸東京野菜の栽培は2007年から取り組み、2009年には、大蔵大根、亀戸大根、金町小かぶ、東京長かぶ、のらぼう菜を栽培した。井上さんの家では従来から大蔵大根はつくっていたが、ほかに江戸東京野菜の栽培経験はなかったという。

「固定種の野菜は茎が折れやすかったり、揃いが悪かったりするので、栽培、収穫、出荷、すべてに作業時間を要します。しかし、味はいい。小金井の町おこしにとって大切なものなので、手間をかけてつくり、いいものを選んで出荷しています」と井上さん。

 井上さんのつくる江戸東京野菜は、関連のイベントだけでなく、JA東京むさし小金井経済センター(直売所)、小金井駅前にオープンした大型スーパーにも出荷。最近では市内の小学校から給食用に大蔵大根の注文があり、おでん、さらには、大根葉もそぼろご飯に調理されて給食メニューとなったという。地元農家がつくった江戸東京の伝統野菜に、子どもたちはどんな感想をもったのだろうか。

 井上さんはさらに、栽培を始めたことで行政、市民団体、商工会、学校との交流が深まったうえ、「大竹さんの主宰する“江戸東京・伝統野菜研究会”のメンバーに加わって、小金井を超えた農家どうしのつながりも生まれています」と語ってくれた。

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小金井市の農家・井上誠一さん
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井上さんの亀戸大根の畑

タネ採りにも挑戦

 2009年11月21日〜22日、市内の小学校の校庭を会場に、恒例の「小金井市農業祭」が開催され、井上さんが出品した大蔵大根が最高賞の東京都知事賞を受賞した。青首大根が主流の今では、大蔵大根での受賞はめったにないことなので、JAや市内農家が関心を寄せているのだという。

「都知事賞を受賞した品種は、翌年栽培する人が増えるので、来年はもっと多くの農家が大蔵大根の栽培を始めると思います。江戸東京野菜をつくる農家はこれから、さらに増えるでしょうね」と、顔をほころばす。

 井上さんはいま、2種類の江戸東京野菜の自家採取に取り組んでいる。

 ひとつは固定種の「大蔵大根」だ。JA東京むさし小金井経済センターを通してタネを入手し、ハウスに植え付けた。ふっくらと根を伸ばした大蔵大根のなかから、姿形のよいものを何本か選び、タネ採り用として畑に植え直す。そしてほかの品種と交雑しないように厳重に注意しながら、花を咲かせ、結実したタネを採る予定である。

 もうひとつは江戸生まれの小型のナス「寺島ナス」である。

 江戸東京・伝統野菜研究会の大竹さんは、つくば市の“農業生物資源ジーンバンク”に保存されていたタネを取り寄せ、 “なす名人”と評される三鷹市の農家に栽培を依頼。この夏、井上さんは、初めて栽培されたなかから苗3本を分けてもらい、畑で実らせた。来年の栽培用に、タネ採りの準備を進めているそうだ。

 現在、小金井市で栽培されている江戸東京野菜は、大蔵大根、亀戸大根、金町小かぶ、伝統小松菜、しんとり菜、東京長かぶ、のらぼう菜、馬込半白きゅうり、東京うどの9種類。

 井上さんたち小金井市の農家の意欲と努力により、2010年は寺島なす、馬込三寸人参の栽培が始まる予定である。

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井上さんの畑で育つ大蔵大根。固定種のタネで採種にも挑戦予定


◆参考サイト
《JA東京中央会》
http://www.tokyo-ja.or.jp/
《JA東京むさし》
http://www.jatm.or.jp/
《東京都農林水産振興財団》
http://www.tokyo-aff.or.jp/
《大竹道茂の江戸東京野菜ネット》
http://fv1.jp/ootake/


◆参考書籍
『江戸・東京 農業名所めぐり』JA東京中央会企画・発行 農文協 2002年
『江戸東京野菜 物語編』大竹道茂著 農文協 2009年
『江戸東京野菜 図鑑編』大竹道茂監修 農文協 2009年




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